可能な限り在宅で暮らすことを目指す

通常、私たちは自宅で生活をしている。
自宅とは、私たち自身が主人公である世界である。
自宅であれば、介護が必要になった時でも、人は、
自分自身で立てたスケジュールに沿って日常生活を営むことができる。
朝何時に起きるかは自分の自由であるし、食事を摂るか摂らないか、
何を食べるかも自分自身で決めることができる。
(手助けさえあれば)買い物に出かけることもできる。
家族や友人たちとおしゃべりをし、夜更かしすることもできる。
自宅の良さとは、介護が必要になった時でも、
介護のために自分の生活や自由を犠牲にすることなく、
自分らしい生活を続けることができる点にある。
日常生活における自由な自己決定の積み重ねこそが
「尊厳ある生活」の基本であり、
在宅での生活であれば当たり前のことである。
だからこそ、多くの人は自宅での生活・在宅での介護を望むのである。
しかし介護が必要になった時、様々な事情から住み慣れた自宅を離れ、
家族や友人たちとも別れて、遠く離れた施設へと移る高齢者も多い。
そのような人たちは、これまでの人生で培ってきた人間関係を
一旦失い、新しい環境の中で再び築くことを強いられることになる。
心身の弱った人がそうした努力を強いられることは大変な精神的負担を
伴う。それでも、現在の在宅サービスだけでは生活を継続できない、
あるいは介護を受けるには不便な住環境であるといった理由から、
在宅での生活をあきらめて施設に入所していくのである。
確かに、施設には、昼夜を通して常に職員が施設内にいて、
転べばすぐに起こしてくれるしトイレの介助もすぐに対応してくれる。
「365日・24時間の安心感」を手に入れることができるという
長所がある。この「安心」はとても重要であり、現状の在宅ケアでは
なかなか実現できない施設の持つ大きな機能である。
しかし、自分の住み慣れた土地を離れて入所するケースが多いため、
その人が長年にわたって育んできた人間関係などが断たれ、
高齢者にとって最も大切な生活の継続性が絶たれてしまう場合が多い。
また、現在の施設では、個室に入っている人はまだ少なく、
4人部屋等に入っている人が多い。
そして、他人と一緒に起床・就寝、食事、入浴、レクリエーション等、
施設の決めた日課に沿って集団的に行動して日々が過ぎ、家で暮らして
いたときのように自分自身で生活のリズムを決めることは難しい。
このような生活の中で、入所者は、施設の中で自分の役割、存在意義を
見失い、自立への意欲や人生に対する関心を失っていくのではないかと
思われる。
また、痴呆性高齢者の中には、このような環境の下では症状が悪化する
場合があるという問題点も指摘されている。
私たちが目指すべき高齢者介護とは介護が必要になっても自宅に住み、
家族や親しい人々と共に、不安のない生活を送りたいという
高齢者の願いに応えること、施設への入所は最後の選択肢と考え、
可能な限り住み慣れた環境の中でそれまでと変わらない生活を続け、
最期までその人らしい人生を送ることができるようにすることである。
さらに、施設に入所した場合でも施設での生活を限りなく在宅での
生活に近いものにし、高齢者の意思、自己決定を最大限尊重したものと
するよう、施設におけるケアのあり方を見直していくことが必要である。

~~「2015年の高齢者介護」からの抜粋~~
( 高齢者介護研究会 )
※平成16年度末を終期とする『ゴールドプラン21』後の新たなプランの策定の方向性、中長期的な介護保険制度の課題や高齢者介護のあり方について検討するための研究会。

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